Aug 23, 2012

(500)日のケルティック・ロマンス(ゲストコラム:森本康治)

僕がMarigold Musicというレーベルを始めて今年の7月で5年になるのですが、それ以上に映画音楽ライターとして活動している期間が長く、未だに自分の本業をどちらにすべきなのか分からないという状態です。どちらの仕事も僕にとって重要なものなので、多分これからもこんな感じでやっていくと思いますが。

今回レーベルからマイケル・ダナ&ジェフ・ダナのアルバム『A Celtic Romance』(以下『ケルティック・ロマンス』)をリリースする事になったのも、ライター活動を通じて知り合ったハリウッドの映画音楽家の方々とのご縁の賜物だったりします。

僕がレーベルを立ち上げた時に目標としていた事の中に、「親交がある映画音楽家の人たちと仕事をする」「CD化されていない(もしくは日本のiTunesで買えない)サントラ盤をリリースする」・・・というものがあったのですが、後者はライセンス問題がなかなか面倒なうえに、金銭的な問題もあり、早々と断念する結果となりました。以前、アメリカの某レーベルとサントラのライセンス契約に関する交渉をした時、「ウチで出してる『○○』のサントラを日本で出したいの? んじゃCDプレスは最低3,000枚からな。あと、売り上げはCD・配信共に毎月報告する事。契約金は最低○○ドル。これでどう?」などと条件を提示された時はさすがに凹みました。「あ、もういいです・・・」と即答。金額もさることながら、ウチみたいな弱小レーベルが3,000もCDの在庫を抱えたらエライ事になってしまいます。配信が主流になりつつあるこのご時世に、何でこんな条件だったんだろう。未だに謎です。

このようにレーベル設立早々苦い体験をする事になってしまったのですが、それでも夢捨てがたく・・・という思いもあり、何とか映画音楽家の方と仕事をする機会を模索しておりました。そんな中、かれこれ6, 7年ほどお付き合いのある作曲家のマイケル&ジェフ・ダナの兄弟に相談してみると、「自分たちが曲のライセンスを管理してるアルバムがあるから、そのうち一緒に何か出来るといいねぇ」という有難いお返事が。それが2010年11月頃の話。

その頃はEliot Lewisのアルバム『6 & One』を製作中(発売は2011年2月23日)だったので、それじゃあ2011年12月リリースでスケジュールを組んでみようかなと思った矢先、またもやトラブル発生。例の東日本大震災が起きてしまったのでした。電気もガスも水道も止まった真っ暗な部屋で、3分おきぐらいにやって来るデカい余震にビクビクしながら「こりゃもうダメかもなぁ、レーベルも終わったなぁ」と絶望的な気分になっていると、10日前にホール&オーツの東京公演で会ったばかりのエリオットさんやチャーリー(Charlie DeChant)さん、FOZZYのマネージャー、サントラ盤ライナーノーツのインタビューでご縁が出来た映画音楽家の方々から安否確認のメールが次々とiPadに送られて来るではありませんか。その中にマイケル&ジェフ・ダナもおりまして、この時は本気で泣けました。国内外問わず、あの日連絡をくれた人たちのおかげでヤケを起こさずに済みました。

幸い僕の住んでいる地域は被害が少なかったのですが、それでも去年は震災の後始末がいろいろあって、とてもレーベルからアルバムリリースするような気力はなく、仕事のモチベーションも上がらない状態が続きました。何とか年末ぐらいから精神的に吹っ切れてきたので、マイケル&ジェフと連絡を取ってようやく契約交渉を進める事に。

今回のアルバムは1998年にリリースされた同名作品(現在は廃盤)のリイシューという事と、ウチも一応「被災企業」という事で彼らが気を遣ってくれて、おサイフに優しい条件で一発サインしてくれまして、思いのほかスムーズに交渉が進んでいきました。『ケルティック・ロマンス』の半分は優しさで出来ています。

『ケルティック・ロマンス』は「架空のケルト神話のための、架空のサウンドトラック」というコンセプトで製作されたアルバムで、アイリッシュ・フィドルやイリアン・パイプスといったアイルランド由来の楽器をオーケストラと共演させたインスト曲中心の作品です(ヴォーカル曲も3曲あり)。1998年のオリジナル盤にはアルバムのモチーフになった”架空のケルト神話”「The Legend of Liadain and Curithir」が14ページにわたってブックレットに掲載されていたのですが、今回もそれを再現しようとすると、印刷コストがハネ上がってしまいます。だからといってオリジナル盤からコンテンツを減らすわけにもいかず、さてどうしたものかと思ったのですが、P+M Magazineを読んでいて「あ、そうか。PDFという手があったなぁー」と気づきました。これならスマホとかiPadでお手軽に読める(全編英語ですが・・・)からいい感じではありませんか。PDFデータの提供方法についてはCD-EXTRA形式も考えたのですが、万一再生に不具合があったりすると厄介なので、ウェブサイトからダウンロードして頂く方式を採らせて頂きました。一応”購入者特典”って事になってますが、まぁ実質フリーダウンロードみたいなもんです。

「The Legend of Liadain and Curithir」をPDF化した事で、ブックレットの印刷コストは大幅減。浮いた予算を活かして、オリジナル盤に付属しなかったライナーノーツとストーリーのダイジェスト訳を追加。アルバムの価格も通常より若干低め(2,310円)に設定。オリジナルのジャケットデザインのデジタルデータがなかったため、日本版のジャケットは新規に作り直す必要がありましたが、最終的にはアルバムの製作費と価格を抑えつつ、旧盤よりもコンテンツを増やす事に成功しました。

新しいジャケットもなかなか好評で、「前のやつ(オリジナル盤)は何か敷居が高そうだけど、こっち(新装版)はアーティストの顔が出ていて親しみが湧く」という意見が多くてひと安心。写真はマイケル&ジェフに「何かジャケ写に使えそうな写真を送って下さい」とお願いして送ってもらったものなのですが、ジャケ写に使うと聞いたら彼らもいい写真を選んでくれたようです。本人たちも端正な顔立ちのナイスミドルなので、モノクロでも画になりますね。知らない人が見たら、映画音楽家というよりサイモン&ガーファンクルみたいなポップ・デュオのアルバムだと思ってしまいそう。ちなみにオリジナル盤は絵画調のジャケットだったので、新装版は英文学小説の表紙風にデザインしてみました。

企画をスタートさせてからアルバムが出来上がるまでの間に、僕自身予想もしなかった出来事(いい事も悪い事も含めて)が次々と起きた事もあり、『ケルティック・ロマンス』はいろんな意味で忘れられないアルバムとなりました。「映画音楽家と仕事をしたい」という個人的な欲求も満たせたし、長年廃盤になっていた隠れた名作を復活させる事も出来たので、震災明けにしては充実した作品を世に送り出す事が出来たのではないかな、とも思っています。さすがにこのテのジャンルで”大ヒット”は難しいと思うので、細く長くアルバムが売れる事を願っている次第であります。

マイケル・ダナ&ジェフ・ダナ『ケルティック・ロマンス』
MGMU-1005 2012.05.15 ¥2,310 (tax in)

1. Evensong / 夕べの祈り
2. Hills of Ireland / アイルランドの丘
3. Love of Heaven / 天の愛
4. The Anchor Dream / 聖なる錨の夢
5. The Blood of Cu Chulainn / クー・フーリンの血を引く者
6. The Nightingale’s Song / ナイチンゲールの歌
7. Funeral / 愛する者との別れ
8. Dia Dha Mo Chaim / 神よ我を包み給え
9. The Prayerstone / プレヤーストーン
10. Moon & Stars / 月と星々
11. The Silent Sun / 静かなる太陽
12. Iona / アイオナ島

■Mini biography
Mychael Danna(マイケル・ダナ):
1958年カナダ生まれ。トロント大学で作曲を学び、1985年にグレン・グールド財団より奨学金を受ける。映画音楽の代表作はウィノナ・ライダー主演作『17歳のカルテ』、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ズーイー・デシャネル主演作『(500)日のサマー』、ブラッド・ピット主演作『マネーボール』など。

■Jeff Danna(ジェフ・ダナ):
1964年カナダ生まれ。15歳でプロのギタリストとして活躍し、兄マイケルの手ほどきで映画音楽を手掛けるようになる。映画音楽の代表作はショーン・パトリック・フラナリー&ノーマン・リーダス主演作『処刑人』とその続編『処刑人II』、ヒース・レジャーの遺作となったテリー・ギリアム監督作『Dr.パルナサスの鏡』など。

http://www.marigold-mu.net/dannabros/

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森本康治
映画音楽ライター/Marigold Music代表
http://www.marigold-mu.net/
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